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歯科の受付応対・事務

--1. 受付業務の必要性--

近年の歯科医療の普及と高度化には著しいものがある。
また,国民皆保険や医療保険の充実によって,受診者の数も多くなってきた。
一方,歯科大学・歯学部の増設とともに歯科医師数も着実に増加し,歯科診療所の開設も増える一方である。

受付の必要性

医療にかかる患者数
2005年の患者調査によると,わが国の医療にかかる1日の患者数は約856万人であり,その内訳は,病院が入院0外来の計326万人であり,内科・外科等の医科診療所が402万人,歯科診療所が128万人となっている。
これを1医療機関あたり平均でみると,病院が1日あたり361人,医科診療所が41人,歯科診療所が19人となっている。


医療施設数
52,216施設であったのが,2004年までに14,341施設の増加をみている。
近年,医科診療所は増カロ傾向をたどってきたが,ようやく微増状態となってきた。
これに反して歯科診療所が急増している原因は,歯科医師数の増加によることもさることながら,歯科医師が個人開業医を目指さざるをえない要因があるからである。
すなわち,歯科診療所の開設者別をみると,国公立と医療法人立は少なく,個人診療所が866%といった構造によるものである。
歯科診療所数と受診者数との関係が今後どのように推移していくかは,これからの日本の歯科医療需給問題として大変興味ある点である。
しかしそれとは別に,両者の間の信頼関係は年々複雑となり,最近の国民の権利意識の増大とともに,受診者側からの要求,希望が増加し,歯科診療所側の対応によっては医事紛争の種ともなっている。


コデンタルスタッフの協力
また,現行の医療保険制度は出来高払いである。
歯科医師が診療をした内容は行為別に,あらかじめ定めれた点数によって診療報酬が支払われる仕組みとなっている。
歯科医師の経験や人間性および治療の難易度に関係なく,すべて点数で換算される.しかし,現行の制度の不備や不満をいくら並べてみても問題は解決しないことは明らかである。
少しでも問題点の改善を図る手段を講ずることが先決である。
歯科医師のこれに対する努力はもちろんであるが,有能なコデンタルスタッフの協力を得て両者の間の十分なコミュニケーションを図ることは,問題解決の一方策として大変重要である。
一方,歯科診療の高度化,高速イいこ伴い,昔のように歯科医師が受付から診療そして治療費の受け取りまで,なにもかも一人でやるといった時代ではなくなった。
歯科衛生士,歯科技工士,歯科助手および受付事務職員と,それぞれの部署に専門職が配置され, これらのコデンタルスタッフが十分にその職責を果たすことにより,歯科医師は本来の歯科診療そのものに専念できるようになった。
2004年の医療施設調査によると,1歯科診療所あたりの歯科医師は1.4人で,歯科衛生士は0.9人,歯科技工士は0.2人,事務職員は0.3人であるコデンタルスタッフの必要性が認識されてきているので,今後さらに歯科診療所における歯科衛生士をはじめ受付事務職員の充実を図る必要がある。
また,最近の歯科診療所における事務量の増大は著しく,受付事務者の必要性は年々増加している。
すなわち,健康保険証の確認と診療録への記載,診療点数の計算と金銭の受けわたし,時間予約の相談とリコールの連絡、さらに月末の保険診療報酬請求事務に関する仕事などがあり,仕事の量はかなり多くなってきている。


受付の機能
一方,受診者の立場からみても受付は必要である。
普通の会社や役所そして商店を訪れる人と異なり,来院する受診者の大部分にとっては,これから受けなければならない歯科医療の内容はほとんど未知のことがらである。
どのような手続きをすればよいのか,どのような心構えで受診すべきか,この診療所はどのようなシステムで医療行為が行われているのか,どれも受診者にとっては不安材料ばかりである。
したがって,その診療所のルールといったものを受診者に知らせる必要がある。
肉体的苦痛以外に,精神的不安を伴って訪れる受診者にとっては,診療所の扉を開けたその「ときから,その診療所のスタッフー人一人の行動なり言葉が気になるものなのである。
このように,受診者たちに適切な指示や案内をしたり,あるいは相談にのるということも受付の重要な仕事といえる。
歯科衛生士や歯科技工士あるいは歯科助手といったスタッフは,独立した職種として定着してきたが,受付業務についての認識の度合いは他の職種に比較して遅れていたようである。
しかし,現在では受付秘書という言葉にみられるように,単なる受付業務だけでなく秘書的な仕事を加えた,診療所内での重要なポストとして広く評価され定着しつつある。
受付業務の重要さが増すとともに,受付の機能や構造そのものもみなおしがなされてきた.歯科診療所における受付は二つの機能を有している。
すなわち,(1)面接の機能と(2)事務的な機能の二つである。
この二つの機能は,現在の歯科診療所の受付において, どちらも必要であり重要な機能である。
以前の受付は町の内科医院にみられるような小さな窓口で,受診者は単に受診券を出して診療の順番を取り,診療が終われば治療費を支払うといった,事務的で単純な機能しかなかった。


受付の構造
このような窓口式受付では互いに顔もよくみえず、声もよく聞こえないことがある。
互いの顔がよくみえ、姿もみえ、声が聞こえてはじめて互いに意志の疎通ができ、そこによい人間関係がつくられる。
たとえば、「お大事に……」という言葉もこのような状態でこそ、感情のこもった生き生きとした表現となって生まれてくる。
このような窓口式受付も時代とともにその不便さ、不合理さが感じられるようになり、開口部が少しずつ大型化されるようになり、暗いムードから明るいムードになってきた。
近年はほとんどの歯科診療所が銀行などにみられるオープン式受付を採用するようになった。
この形式では普通、受付者は座位で、受診者は立位で受付事務を済ませることになる。
このように、いつも両者が対面した形であると、事務的処理のみならず面接をしたり簡単な相談にのることができる。
さらに受付そのものが待合室のなかにあるといった感じであるので、待合室の受診者の様子や玄関口に出入りする人の様子をいつも観察できるという長所がある。
以上、歯科診療所における受付の重要性について述べてきた。
歯科医師と受診者とのコミュニケーションのパイプ役が必要な現在、その役目を負う受付の社会的役割はますます大きいものになる。


受付の存在の意義

受付の存在により考えられる利点とその意義は、次のとおりである。
(1)歯科医師と受診者との間のコミュニケーションの役割を果たす。
(2)歯科診療の流れのなかでの重要な役割を果たす。
(3)膨大な事務量を処理する役割を果たす。
以下、順次説明を加えてみる。


受診者とのコミュニケーションの役割
歯科医師と受診者との間のコミュニケーションは、両者の信頼関係から始まる。
信頼関係は互いに言葉を通して相手の心のなかに溶け込むことにより、はじめて生まれてくる。
言葉のやりとりのなかで人間は生活をし、成長していくものであるかざり、 この言語活動を無視することはできない。
コミュニケーションの原始的な形は下等な動物においても広く見出されるといわれているが、人間はコミュニケーションを行う最高の手段として言語をもっている。
人間はこれをもつことによって多くの経験的内容を他に伝えることができるだけでなく、さまざまな心の動きを言語に置き換えて表現したり、文字という形を与えて保存することができる。
人間の思考、感情はこの言語を除外して考えることはできない。
また、それを使用することによって、人間はきわめて多様で豊富な情報を、正確かつ能率的に交換することができる。

1)コミュニケーションの意味伝達者の側からみればコミュニケーションを行うことは、次のような意味をもつ。
.(1)相手の理解または共感を期待する。
(2)相手の支持を求める。
(3)自己の知識を伝える。
(4)自己の要求、企図への同調を求める。
また、受容者の側では次のようなことを得る。
(1)相手との接触による情緒的安定または満足。
(2)必要とする情報の入手.そして両者はともに、 これを通じていろいろな事態への適応を判断し実行を可能とするのである。
しかし、現在の医療の場で、このようなコミュニケーション*3が実際に行われているであろうか。
けっして十分とはいえないであろう。
そこで、受付が診療に多忙な歯科医師を助けて、受診者との間の十分なコミュニケーションを図り、相手の理解または共感を得るとともに、互いに必要とする情I編基礎知識報を入手する必要がある。
このことは、受付のみならず治療現場での歯科衛生士の重要な仕事でもある。

2)受付の役割
また、受診者は歯科医師や受付事務担当者からの言葉を待ち受けているものである。
人間関係におけるコミュニケーション*3では互いに満足する状態をかもし出す必要がある。
したがって、受付はこちらから相手方への意志の伝達だけでなく、相手方からのコミュニケーションの受け手であるという認識をはっきりともつ必要がある。
また同時に、いかなる投げかけに対しても、それに応えるだけの知識と人間性を要求されるのである。
最近頻発している医事紛争のなかには、ほんのささいな、言葉遣いや気の配り方で解決しえたであろうと思われるケースが非常に多いことは注目に値する。
受付は、歯科医師と受診者との間のコミュニケーションの役割を果たす、 まず最初の重要な存在といえる。
その意味で、受付は“歯科診療所の顔"といってよい。

3)話し方の重要性
受付と受診者との人間関係に限らず、歯科医師との関係、先輩同僚との関係、また家族との関係、 これらすべての人間関係は、われわれが社会のなかで生活しているかぎり非常に重要なものであり、 これを無視することはできない。
そして、これらの関係は互いに快く理解できる関係、すなわち好意的関係でなければならないことは当然である。
話し方の上手、下手は人間関係を左右する重要な鍵である。
話し方の上手な受付は、患者から好意と信頼を寄せられるとともに、安心して治療を受けることのできる診療所としての信用を得るものである。
(1)上手な話し方
上手な話し方とは、けっして立て板に水だとか、 よどみなくペラペラしゃべるとか、あるいは美辞麗句を並べたてることではない。
その話し方のなかに、なんらかの目的があり、その目的を相手方がごく自然に受け入れて、しかも、なるほど、そのとおりだと相手を十分にうなずかせ、感じさせる効果がなくてはならない。
そのためには、 まず心から誠意と熱意をもって話をすることが大切である.そのうえで話し言葉の工夫をする必要がある。
“おはよう"という挨拶言葉一つをとってみても、そのタイミングとそれに続く簡単な言葉で、心のかようものともなれば、また形式的なものともなってしまう。
「おはようございます。
いかがですか、昨夜はよく眠れましたかJと顔をあわせるなり受付から言葉をかけられた場合、その患者は自分の病気のことに関心を示してくれたという、嬉しい気持ちでいっぱいとなり、思わず「ありがとう、おかげさまで」と感謝の気持ちをもって答えてくるにちがいない。
話すということは、なんらかの結果を生むものである。
その結果が予期せぬものであった場合、 ときには重大な過失を招くことになる。
精神的にも肉体的にも、いらだちをおぼえている患者に対応する受付としては、これは非常に重要な課題といえる。
たとえば、患者に治療を受けるにあたっての注意事項とか心得などを知らせたり、あるいは、その診療所のルールなどをわかってもらったり、 また、まちがった考え方なり行動を改め、理解してもらうために話をしても、それが思いどおりの結果を生まなければ意味がない。
ましてや、思わしくない結果を生むようでは、はじめから話さないほうがよかったということになる。
(2)話の目的
このように、話すということがなんらかの結果を生むものであれば、予期した結果を手にする必要がある。
そのためには、いま、自分はどのような目的で相手に話をしているのかという目的意識をしっかりともつように努力しなければならない。
そして、正しい言葉遣いについて、改めて考え直す必要がある。
話を目的別に分けると、およそ次の五つになる。
(1) 知らせるため
(2) わからせるため
(3) 行動させるため
(4) 改めさせるため
(5) 感じさせるため
この五つの目的は、互いに重なり合うことがあるが、最終的には、どれか一つの目的に絞られる。
このなかでいちばんむずかしいのが“改めさせる"ための話である。
この目的の話は、下手をすると相手から強い抵抗を受けることになる。
話の目的が、互いの意志を通じ合わせることであるとすれば、話の仕方だけでなく、話の聞き方も大事である。
話の聞き方で気をつけなければならないことは、まず、つねに明るく受ける、相手の目をみて聞く、適当にあいづちを打つ、そして相手の話が済んでから発言する、などである。
要は、つねに相手の立場になって聞いてあげることである。
いつの間にか相手の心をとらえてしまう話し方の上手な人は、実に魅力的な存在であり、その人を内面的にも外面的にも、さらに美しくするものである。


歯科診療の流れのなかで重要な役割を果たす
受付が処理する事務的な仕事は年々増加している。
まず、経理。
会計的な仕事、文書の管理、物品の購入と在庫管理、そして外部との連絡、交渉といった仕事がある。
さらに、保険診療の診療録づくりから、月末の保険診療報酬請求事務の仕事は診療所にとってはかなりの負担となっている。
歯科医師の専門的な仕事の内容は非常に広く、かつ深くなり、それに対応するための研修と診療には多くの時間をとらなければならない。
これら歯科医師の専門的な仕事以外の事務的な仕事を専属にかつ積極的に処理する受付の存在は、非常に重要なものである。
うまく機能すれば、診療所自体が管理のいきとどいた活気のある職場となり、 よりよい環境を生み出すようになる。