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歯科の受付応対・事務

--3. 受付の事務的な仕事--

最近の歯科医療の進歩発展は著しく、歯科医師や歯科衛生士の業務範囲はますま す広くなってきている。それにもまして歯科医療に対する国民の意識も高まり、イ ンフォームド・コンセントの件でもわかるように、医療従事者の医療への厳しい対応が要求される時代である。 したがって医療従事者としては、で きるだけ診療に専念できる環境が必要となる。すなわち、診療により多くの時間が 確保でき、診療がよリスムーズに行えるように、診療に付随した事務的ないろいろ な内容などをできるだけよく理解し、能率よく実行することが医療従事者に要求さ れるのである。
ときには社会的な活動を余儀なくされる歯科医師に代わって、事務的な処理も行 わなくてはならないであろう。
事務的な仕事の第一は受付の仕事である。受付は患者がいちばん最初に歯科医院 や病院で接触する場所である。それゆえに、患者が良い印象をもつのも、悪い印象 をもつのも受付の対応ひとつといわれる。受付に始まる一連の事務的な手続き、そ して事後処理まで、すべて大切であることはいうまでもない。そのなかには診療録 (カルテ)や文書の管理、金銭の管理、保険請求、物品の管理などの仕事が事務的 な仕事としてある。
そのほかに診療の場の環境の整備、たとえば待合室の整備なども大切な仕事の一 つである。
最近、さまざまな分野でのコンピュータの活用がめざましい。歯 科医療の場面でも例外ではない。多くの医療情報を処理するときにはコンピュータ なしにできないほどになってきている。とくに患者の事務的な管理や医療情報管 理、検査情報処理、健康保険事務処理、文書作成などさまざまな分野でコンピュー タが使われている。
歯科衛生士としてもその概略を知っておくことはもちろん、使いこなせるように なることが求めれる。

物品の購入と在庫管理

物品の購入
歯科医療で使用する材料、医薬品、事務用品などの消耗品の種類は非常に多 い。まずこれらの品名や内容や用途などを覚えて理解しておくことが必要である。
物品のなかには時間の経過によって変質したり、効力が減じるものがあるので、必 要なものを必要なだけ購入する。必要なだけとはぎりぎりの量だけというのではな い。少しゆとりをもっておくということである。 ときには思いがけず、多量の消費 を余儀なくされることもあるからである。物品の有効期限にも注意が必要である。
購入する物品のリストがわかれば、きちんとリストを整理し、それらに関する条件 や情報を記録し管理しておくと便利である。そのためにはコンピュータを利用する と大変便利である。
購入する物品についての情報としては、次のようなことが考えられる。
(1)品目(消耗材料とか医薬品とか)、品名(商品名や一般名)、製造会社名
(2)購入数量(消費数量)、たとえば1カ月あたりの消費量、常備数量
(3)購入単価、購入費、納品伝票のチェック
(4)購入業者名、注文から物品納入までの必要日数


物品の在庫管理
購入した物品は、分類してきちんと整理整頓し一定の場所に保管する。すぐ に取り出せて、残量もよくわかるようにしておく。たとえば受付に必要な事務用 品、治療に必要な材料、薬局に必要な医薬品、技工に必要な材料、福利厚生に必要 な物品などに分けることができる。
種類に応じてファイル、ケース、キャビネット、オープン棚、戸棚、ワゴン、机 などに整理し保管する。貴金属や劇薬などの保管にはとくに注意を要する。整理保 管にはもちろん名札をつけたり色分けしたりして、必要な品物をすぐに取り出せる ように工夫する必要がある。治療室や技工室などにおける物品の在庫管理については、それぞれの場に管理責 任者を置いて管理する方法がある。たとえば治療室の物品については歯科衛生士 が、技工室の物品については歯科技工士が管理責任者となる。つねに在庫数を確認 し、あと一箱とか、またはあらかじめ決めておいた数量にまで減少したときに、受 付事務係にまで報告し、 ここで整理して、院長なり物品購入の責任者の承認を得て 業者に注文するといった具合である。このようにルールを決めておけば 二重に注文したり、なくなってからあわてるといったことはなくなる。
平素はあまり使用しない救急医薬品などはついチェックがおろそかになる。使用 期限が切れていたり劣化していたりして、必要なときに役に立たずあわてることが ある。 このようなことを防ぐために、定期的な管理チェックが大切である。救急医 薬品はあまり使用しないものであり、 ときには1年以上も使わないことがある。 こ れは診療する者にとってはまことに喜ばしいことであるが、事故は忘れたころに起 こるものである。備えあれば憂いなし、定期的な点検整備を心がけなければならない。


金銭の取り扱い
患者は肉体的にも精神的にも悩みをもって受診してくる。金銭面はもちろん、あ らゆることに神経質になっているものである。 したがって少しでも不安を軽減する ように気を配る必要がある。とくに受付における金銭の取り扱い事務は、他の事務 的な取り扱いとは異なり、慎重のうえにも慎重を期して間違いのないようにしなけ ればならない。受診に関する金銭の授受以外にも、たとえば歯ブラシなどの販売も ある。受付における金銭の取り扱いは多岐にわたるので、応対が育旨率よく行えるよ うに、価格などを整理し、よく把握しておくことが大切である。とくに健康保険の 一部負担率は、患者の資格によって異なるので、間違いのないようにしなければな らない。コンピュータにはあらかじめ患者の資格、たとえば自由診療か、保険診療 か、保険診療であれば何割負担であるかなどを入力しておけば、診療内容と点数や (自由診療の場合は)単価を入力するだけで金額がモニター画面に表示されるよう になるので、間違いも少なく便利である。


金銭取り扱い上の注意事項
1)患者から金銭を受け取るときは、その明細と合計をはっきり告げる 診療内容によって請求金額は異なるので、内容をある程度説明することは、患者 に対して親切であるばかりではなく、 ときには患者の不信感をなくし、患者との信 頼関係を築くことになる。その都度患者に明細書をわたす医療機関もある。
2)金銭の受けわたしを確認する
「1、000円確かにいただきました。」とか、つり銭をわたすときには、「1、000円お 預かりしました。200円のおつりです。お確かめください。」といったように、互 いに確認して受けわたしをし、間違いのないようにする。
3)領収書の発行
本来金銭の授受の証拠として領収書が発行されるが、近年税金の医療 費控除の制度が普及し、領収書の役割が増えてきた。金額を正確に言己載することは もちろんであるが、期日や保険診療か自由診療かなどの内訳も明記する。発行日は 通常金銭の納入日であるが、診療の最終日にまとめて発行することもある。また、 再発行の際などに対処するため、領収書の控えも大切に保管しておく必要がある。


患者日計表
1日の来院患者の氏名、種別〔被保険者(保険本人)、被扶養者(被保険者家 族)、自由診療など〕、収入金額を患者日計表のそれぞれの欄に記入す る。1日の診療が終わった時点で、 これらを集計して、収入の金額と集計額があっ ているかを確認する。


収支日計表
1日の収入と支出をまとめて表にしたものが収支日計表である。
1)収 入
収入の大半は診療報酬であるが、それには保険窓回収入と自由診療収入とがある。それ以外には診断書などの文書料や、歯プラシや補助清掃器具などの販売によ る収入などがある。また一時借入金、預金からの引き出し金なども収入といえる。
2)支 出
患者との金銭のやりとり以外に、その日の物品購入費はもちろん、たとえば新聞 購読料、来客用コーヒー代、待合室の生け花代などは支出である。受付で支払われ た必要経費は記入漏れのないようにしなければならない。3)受付事務の機械化 レジスターとかコンピュータに入力して記録すれば、収支が記録されるだけでな く、集計や区分けなどの経理事務や、領収書の発行も自動的にできるので便利である。


収支月計表
収支日計表を月末に集計してまとめたものが収支月計表である。毎月の収支の 状態を把握することができる。
歯科診療所における必要経費

歯科診療所の事業を行うのに必要な出金のことである。歯科診 療所における必要経費は意外に多い。次のようなものが考えられる。
(1)仕入
歯科材料、金属材料、医薬品衛生材料など
(2)外注費
外注技工料、委託料など
(1)と(2)を売上原価ともいう。
(3)租税公課
事業税、固定資産税、自動車税など
(4)諸会費
歯科医師会費、学会の年会費など
(5)水道光熱費
上下水道、ガス、電気の料金や灯油代など
(6)旅費交通費
診療に関係のある旅費、研修会や講習会へ出席するための交通費や宿泊費、日当 など
(7)通信費
電話料金、郵便料金など
(8)広告宣伝費
各種広告、看板など
(9)接待交際費
診療に関係する接待交際に要した費用である。寄付金、慶弔費、中元、歳暮、患 者に対する茶菓子代、粗品、患者紹介に対するお礼など
(10)損害保険料
診療に関係のある火災保険、医療賠償保険、自動車損害保険、傷害保険などの料金
(11)修繕費
診療用の建物、機械器具などの修繕費、材料代など
(12)消耗品費
事務用品、蛍光灯、ビニール袋など
(13)福利厚生費
従事者の健康管理に必要な費用や慰労費。健康保険料、厚生年金保険料、労働保 険料で事業主が負担する分の費用。従業員退職共済金など
(14)給料賃金
従業員の給料
(15)利子害」引料
事業用借入金に対する支払い利子など
(16)地代家賃
事業にかかわる土地や家屋の貸借費用、借りている駐車場代など
(17)研修研究費
研修に要する器材料、その他海外研修、スタディグループの費用など
(18)衛生管理費
白衣、診療椅子カバーなどの洗濯代、石けん、消毒剤、 トイレットペーパーなど
衛生管理に必要なもの、医療廃棄物処理費、掃除用品、ビル清掃など の費用
(19)学術図書費
学術図書の購入費用
(20)消耗備品費
購入価格20万円未満の機械、器具、什器、備品など。20万円以上のものは固定
資産台帳に記載して減価償却する。
(21)雑 費
診療室や待合室の花、植木などの費用、新聞雑誌代など
(22)専従者給与
生計を一にしている家族で、事業に従事している者に支払った給与(青色申告者の場合)


文書の発行

歯科診療所、病院歯科などで取り扱う文書には、診療録(カルテ)のほかに、診断 書およびそれに類する証明書〔たとえば交通事故の自動車損害賠償責任保険の診療 報酬明細書(レセプト)など〕、処方箋、歯科技工指示書、検査依頼書、患者連絡 用文書(患者紹介状や紹介に対する返信)、補綴物維持管理にかかわる患者への案 内書および歯科医師会などの会務連絡用文書などがある。
診療録、診断書、処方箋および歯科技工才旨示書についてはもちろん、これらの文 書は歯科医師の責任において書くべきものであり、それぞれの所定の様式で印刷さ れたものが使われることが多い。これに必要事項を記入するが、いずれも受付にお いて再度確認することを忘れてはならない。封筒に収め宛名を書くことは、通常受付の仕事になる。

診断書
診断書の類はいろいろあるが、患者からの要求があった場合は発行しなければ ならない。診断書は、コピーなどをして同じ内容のものを控えとして保存しておかなくてはならない。


処方箋
処方箋の内容については、歯科医師の責任で記入しなければならない。 しか し、受付では患者の氏名、生年月日、保険の各種記号や番号のほか交付年月日と処 方箋の使用期間、さらに医療機関の住所、名称、電話番号、(保険)医師の氏名な どの事務的な記載をして押印する。また記載事項の内容、すなわち薬名、分量、用 法および用量が診療録のものと違っていないかを確認してから患者にわたす。
健康保険では通常、処方箋の有効期限は発行日を含めて4日以内とな っているが、帰郷療養その他の事情があると認められる場合は、この限りでない。
また投与量は、通常内月反薬は1回14日分を、外用薬は1回7日分を限度とする。
しかし、帰郷療養など特殊の事情がある場合に必要があると認められたときは、旅 程その他の事情を考慮して、 1回30日分を限度として与えることができる。


歯科技工指示書
歯科技工指示書の内容については歯科医師が記入する。しかし、 受付では患者の次回来院予定日と技工物完成予定日時とを確認して、患者との約束が破られないように注意しなければならない。技工物完成日時と患者の次回来院予 定日との間には二、三日の余裕をもっておくほうが望ましい。技工物になんらかの 不都合があったり、再製作をしなければならない事態に対処するためである。


患者紹介状と返事
たとえば、歯科診療所から大学病院の回腔外科などへ患者を紹介するよう な場合に、病状などの経過を記述し紹介する。
また、逆の場合もある。 これらの紹介状は控えを診療録に添付するか、別にファイ ルしておく。
紹介に対する返事は、やはり診療録に添付するかファイルしておく。


検査依頼書
血液学的検査や病理組織学的検査などの臨床検査は、臨床検査センターなどの専門検査機関に依頼することが多い。通常依頼用紙に必要事項を記入し、記入漏れ がないかよく調べ、検体と依頼書の氏名に誤りがないかよく確かめたうえで、検査 機関に依頼する。診断にかかわる内容の記載は、 もちろん歯科医師の役目である。
検査結果の報告書は診療録に貼りつけるか、 ファイルに整理する。


医療廃棄物処理の管理票(マニフェスト)
感染性医療廃棄物(たとえば血液のついた器具や 材料などで廃棄するもの)の処理については、各医療機関で責任をもって処理する ことが法律で義務づけられている。このような廃棄物を専門の処理業者などに委託 する場合に、管理票を交付するが、 1年に1回行政に報告する義務がある。処理が 完了した時点で送り返される管理票は、報告の際に必要とするので大切に管理保管 する。


患者連絡用の文書

患者への連絡用の文書の管理は、受付の仕事の一つとして大切なものである。た とえば、治療途中で来院しなくなった患者への問い合わせの手紙、料金未払い者に 対する請求書に添付する文書、患者の紹介者への礼状、その他季節の挨拶状やリコ ールの通知文書などの事務的な文書の作成や整理などである。

事務用文書の書き方の要点
1)正確な内容をもつこと
文書は相手にこちらの意志を伝達することを目的にしている以上、内容はつねに 正確でなければならない。
そのためには、伝達すべき要点をまずできるだけ簡潔に箇条書きにしてみる。次 にその箇条書きの文書を順序よく整理し、文章に組み立てるようにすれば、無駄の ないものができる。無駄のない文章とは、要点をしぼり不必要な表現をさけるとい うことである。不必要な文章が多いほど不正確になりがちである。本来の目的から はずれてしまい、はじめの意図とは違って受け取られることになる。
2)平易で、行き届いた表現であること
平易な表現とは、やさしい表現ということである。 とくにあらたまって文章を書 くというのではなく、普段話しかけるように、 日常使われている用語や言葉で書く ということである。
互いが面と向かい合って話せば、言葉以外に互いの表情や態度力`言葉を補ってく れる。 しかしこれが文字だけになると、そうはいかなくなることが多い。行き届い た表現とは、必要にして十分な内容をもった文章を書くということである。5 WlHの要点のつかみ方を参考にして、文章をつくるのも一つの方法である。
すなわち、
(1)だれからだれにあてた文書か。そして見出しの要件と内容が一致しているか
(2)なにをいおうとしているのか
(3)時間や場所の指定が必要かどうか
に)理由が簡潔明瞭に述べられているか
(4)返信を求めたり、相手になにかを要求するとすれば、その方法はどのようで あるか
以上のことがらに注意して、文書の内容が一貫性をもち、矛盾がないことを確か めて、手早く文書をつくる。そのためには、表3-1に示すような基本的な頭語、 時候のあいさつ、結びの言葉などを知っておくと、迷うことなく、簡潔な文体にま とめること力Sできる。また、 しばしば使う文体は、各種文書の書式をつくっておく と便利である。またこれらの書式を、コンピュータかワープロに入力しておき、必 要に応じて取り出して使うようにすれば、迅速かつ正確に作文でき、プリントもで きるので能率的であり便利である。


文書・資料の整理と保管
歯科診療所で取り扱う文書や資料は、公的な文書からダイレクトメールまでさま ざまである。 また膨大な量であり、その整理と保管は受付の重要な仕事の一つとな っている。
文書の整理(ファイリング)とは、
(1)必要な文書と不必要な文書とに分ける
9)必要なものは保存し、不要なものは捨てる
0)必要なとき、すぐに取り出せるように組織的に整理保管しておく
に)今まで個人に委託され、 どちらかといえば私物化されていた文書を1カ所に集中して管理する などの目的のための文書整理方式をさしている。 これらの方式が診療所全体のシス テムとなっていなければ、その目的とするところの効果は上がらない。この文書整 理が一つのシステムとなったとき、 これをファイリング・システム(書整理方式) とよんでいる。最近は、文書のほかにファクシミリやビデオテープ、写真、カラー スライド、フロッピーディスクなどが加わってきている。保管の際にはこれらの資 料を破損しないように注意しなければならない。


ファイルに必要な文房具、事務用収納庫
ファイリング・システムのために
(1)ピン、クリップ、ステープラー(ホッチキス)、糊など、文書をとじるため の文房具
(2)紙に丸いとじ穴をあける穴あけ器(パンチ)
(3)書類をつづり込みまとめるためのファイル類
(4)書類箱や書類戸棚
など、最近はカラフルな数多くの便利な文具類が市販され、日常さかんに使われて いる。
しかし、これだけでは単にある特定のものや、あるいは同種類の文書や資料を数 枚とじたというだけの作業である。そのとじ込んだファイル類が散逸していれば、 必要なときにいつでもすぐに取り出せるというわけにはいかなくなる。あるいは、 受付が保管したとしても、ほかの人がどこにあるのかわからないようでは、探すの に手間がかかり、せっかく整理した意味が失われることになる。そこで、以上のよ うな欠点をなくすための整理法が必要となる。


キャビネット式整理法
キャビネット方式というのは、フアイリングキャビネット という整理ダンスの引き出しに、同種類のものを一つにまとめ、さらに、それらを 系統的に並べて引き出しやすく整理する方法である。
1)キャビネット式整理法
(1)ホルダー
ニつ折りにした厚紙の書類ばさみである。そのなかに書類を入れ、折り目を下に してキャビネットの引き出しに立てておくものである。
ホルダーはなかに入れる書類の大きさによって寸法が決められる。B5、A4、 B4判用などがある。
(2)ガイド
キャビネットの引き出しに立て、並べたホルダーの区分けと、そのグループの見 出しの役目をする、やや大型のカードである。
(3)ラベル
ホルダーにはさんだ書類のタイトルを書き、ホルダーの耳に貼る紙である。グル ープごとに色を変えて使うと便利である。以上がキャビネット式整理の付属用具であるが、ホルダーを使わないでキャビネ ットだけを利用する方法がある。こうすると、ホルダーの厚みがなくなるので、キ ャビネットの1段に今まで以上の数の文書や資料を収納でき、経済的である。ただ しこの場合は、そのまま入れただけでは、目的のものを取り出すときにかなり不便 である。したがって適当に中仕切りを入れ、これを第一ガイドとし、またさらにそ れを小分けして第二の見出し、すなわち第ニガイドを入れて使用すればよい。
カラースライドには、専用のファイルがある。通常20景が1枚のファイルに納 まる。変色しないように、できるだけ湿気を避けて保管するよう心がける。 また、 ほこりをつけたり、傷つけないように取り扱う。写真のネガフィルムやカラー写真 についても同様である。
録音テープやフロッピーディスクは磁気によって内容が消えてしまう恐れがあ る。周囲の磁気から守るようにして保存する必要がある。専用のボックスを利用すると便利である。
2)ファイルのまとめ方
保管する文書や資料が一つずつバラバラでは使いにくいので、それらをなんらか の基準によって分類し、 1冊のファイルにまとめる必要がある。まとめるというこ とは、よく一緒に使う文書や資料を同じ1冊のファイルに入るようにするというこ とである。
よく使われるまとめ方には、次の五つがある。
(1)相手先別整理
往復文書などによく使われる。だれからきたのか、だれ宛に出したのかの“だ れ"という相手先の名前ごとに1冊のファイルにまとめる方法である。そのファイ ルを取り出せば、相手とやりとりした手紙や資料などが全部入っているので、照会 や回答などの経過がすぐわかることになる。診療録の整理法には、 この方式がその まま使える。
(2)主題別整理
どういう内容の文書か資料か、そのテーマ別にまとめる整理法である。
たとえば、セメント類の説明書や資料、印象材の説明書や資料といつたように分 類して整理する。
診療所では文献のコピー、医薬品や器材に関する資料の整理に使われる。
(3)形式別整理
書類の内容に関係なく、通達文とか規定規則などと一緒に、書類の形式で同じフ ァイルにまとめる方法である。
(4)表題別整理
主として帳票など、すでに表題の印刷してあるような文書をまとめるのに適して いる。
(5)用件別整理
たとえば、人事記録など従業員別の就業から退職までの全記録をまとめてファイ ルする方法である。
3)個別ホルダーによる診療録の整理方法
以上のようないろいろなまとめ方を使って保管していた多数の文書や資料が、い くつかのまとまったファイルになったとする。しかし、これらのファイルを雑然と 保管したのでは、必要なときに探しにくいので、なんらかの基準によって何組かの グループに分けて整然と並べる必要がある。
(1)五十音別整理
歯科診療所の場合、いちばん多く扱う書類は診療録である。診療録の整理は、普 通相手先別の整理方法、すなわち、ファイルのタイトルは個人名であるので、ファ イルを電話帳式に五十音別(アイウエオ順)に並べて整理する方法がいちばんよく 使われる。また、最近はコンピュータの普及によって、受診の順番に番号をつけて並べ整理する方法もある。この場合は、名前と番号のどちらからでも抽出すること が可能である。
(2)患者1人に1枚のホルダー
いずれにしても、このような場合、個別ホルダーを使うのがもっとも合理的であ る。コンピュータを使う場合は個人情報として登録して使う。
個別ホルダーというのは、患者1人に1枚のホルダーを作る方法である。1枚の ホルダーに診療録ばかりでなく、X線フィルムとかその他関係資料など、その患者 のすべての記録を一括して保管しておけるので便利である。コンピュータにもこれ らの言己録を入力し、フロッピーディスクに保存しておけば、いつでも必要なときに 取り出してみることができる。フロッピーディスクは直径5インチとか3。5インチ で数ミリの薄い円板状のもので、何千人ものデータが記録できる。しかも即座に情 報を取り出すことができる。情報処理は飛躍的に進歩している。
(3)個別ホルダーヘの見出しのつけ方
左から1列目は第一ガイド(大見出し)でア 行、力行、サ行というように大きく分類し、 2列目の第ニガイドで、さらにアイウ エオ、カキクケコ、サシスセソというように細分化していく。4列目は実際に診療 録がはさまっているファイルの耳であり、患者の氏名が書かれている部分である。
このホルダーのことを個別ホルダーといい、普通はグループの最後、すなわち次の ガイドの前にさしておく。雑ホルダーは、個別ホルダーのグループのなかに入る前 の段階の一時的なものと考えればよい。患者の氏名からホルダーを探すとき、それ が個別ホルダーになければ、 まだ雑ホルダーにあるということである。 この雑ホル ダーはキャビネット式整理法の特徴の一つである。
診療録の枚数が多くなれば、第一、第ニガイドを使っても簡単に取り出せなくな ることが考えられる。このようなときは、姓の2字目までを使うとかして、さらに 細分する。 しかし、あまり細分すると、診療録をしまうときに面倒であり、間違っ て別のところへ入れてしまう恐れもある。
日本歯科医師会の調査によると、統計的にはおよそ1診療所あたりの1カ月平 均患者件数は200-240件程度であるので、後述するようにファイルの置き換えをすれば、そ んなに細分する必要はないのではなかろうか。
(4)診療券の受付順整理法
五十音別に配列する以外に診療券の受付順に一連番号をつけていく方法がある。
コンピュータを使う場合はこの方法でも支障はないが、番号だけでは患者の氏名が わからなかったり、診療券を忘れてきたような場合、氏名だけでは番号がわからな いので、番号と氏名との索引が必要になる。また、長い年月の間にはかなり大きな 番号になるので、年度ごとに、たとえば1994年の場合には下2桁をとって94001 からはじめ、1995年は95001からはじめるといった具合にする。
最近では、コンピュータを使ったオフィスオートメーション化によって、患者数の多い診療所や病院では、自動的に必要なファイルが、番号を押すだけでただちに 取り出せるような診療録の自動検索機が使われている。
4)ファイルの置き換え
年月の経過とともに、文書や資料も次第に多くなり、なかには使われなくなって しまうものも出てくる。古くて使われなくなった資料は次第に手元から遠ざけ、手 元にはつねに新しくてよく使うものを置くようにするとよい。たとえば、 4段キャ ビネットの場合、上2段には本年度のファイルを収め、あまり使いやすくない下2 段の引き出しには前年度のファイルを収める。
コンピュータの場合は、一定期間を決めて入力した資料(データ)をフロッピー ディスクに登録し記憶させ保存する。 これを使っていつでも資料をみたいときに取 り出してみることができる。


その他の資料の整理と保管
ここでいう資料というのは、われわれが臨床の場において、診断 や治療に必要な情報や、病院や診療所の経営に必要な情報をさしている。
近年、情報が社会のなかで果たす役割が次第に大きくなり、いわゆる情報化社会 に移行してきた。そして、情報を扱う仕事が産業として成り立ってきた。古くか ら、新聞、出版、放送、通信、教育など情報を提供する産業が存在していたが、情 報化社会への移行とともに、情報提供サービス、情報処理サービスなど新しいタイ プの情報産業が加わってきた。結果としてわれわれの身辺には情報が氾濫してお り、しかもその内容が次第に複雑多岐になってきている。そして、これらの情報 は、割合簡単に手に入るようになってきた。
しかし、いちばん大事なことは、 これら情報の内容を的確にとらえ有効に利用す ることである。そのためには、正確な情報を得るとともに、これらの資料が必要な ときに、必要なものがすぐに取り出せるようにしておかなければ、せっかく入手し た資料や情報がなんの価値もなく、ただの紙切れになるだけである。
1)新聞・雑誌の切り抜き
新聞や雑誌のなかに、資料として必要な箇所があれば、切り抜いたり、あるいはコピーをして整理する。切り抜くときは記事の余白に新聞の場合は、“紙名、年月 日、朝夕刊の別"を、雑誌の場合は“誌名、年月、巻数、号数、ページ"を忘れず に記入しておく。すなわち、資料や情報の源を記録しておくわけである。切り抜き の整理にはスクラップブックがよく使用される。テーマごとにスクラップブック1 冊にまとめられていれば便利である。また、これらの切り抜きを台紙に貼りつけ、 それをホルダーに入れてキャビネットで整理する方法もある。
2)ビデオ
最近はビデオ(VTR)の発達で、いろいろな情報がビデオに収められ、テレビ の画面でみられるようになっている。
3)カタログ
診療所には業者から送られてくるカタログ類が非常に多い。カタログは業者の名 前で整理するか、商品別にまとめてファイルする方法がある。書籍のようにしっか りしたカタログは、そのまま立てておいてもよいが、薄いパンフレット、 リーフレ ットなどはキャビネット式整理法が適している。
どんな整理法がもっとも適しているかは、それを使う人が工夫して決めるのがよ い。なぜなら、その資料や情報を使うのは、使う人自身であり、その人にとってい ちばん使いやすい方法がもっとも適しているからである。


待合室の管理
歯科診療所はつねに清潔で明るくなければならない。そのためには、診療室内を つねに整頓し、患者に気持ちのよい環境で治療を受けてもらうような雰囲気をつく ることが必要である。われわれ診療に携わるものにとっても、清潔で明るく働きや すい環境のなかで仕事をすることは、ひいてはよい医療を患者に提供することにな る。受付と待合室は、その診療所の玄関であり、患者に第一印象を与える場所であ る。また、患者が大なり小なり不安な気持ちをもって待っている場所でもあるの で、 とくに待合室の管理には気を配らなければならない。
待合室のよい環境づくりには、次のような点に注意すればよい。
(1)不愉快な薬品の匂いや、煙草の匂いなどは取り除き、新鮮な空気を外気温と バランスよく保つようにする。最近では待合室での禁煙を実施している診療所が多 くなってきている。そのためには、禁煙の表示をそれとなく掲げておいたり、また 灰皿を置かないなどの方法を考えると同時に、ビルのような場所で開業している診 療所では、廊下に灰皿を用意して喫煙場所を決めておくのも一つの方法である。
(2)待合室には花などを生けて、温かい雰囲気をつくる。しかし、飾りすぎるの はよくない。
(3)灰皿やくずかごは、いつもきれいに清潔にするように心がける。14)患者の不安を和らげるために、音楽(バックグラウンド・ミュージック)を 流す。
り 化粧室では、鏡はいつもきれいに、曇りを取り除いておくと同時に、ペーパ ーなどの補給にも気をつける。化粧室の不潔さは、だれもがいちばん気にするとこ ろである。
(6)トイレはつねに清潔にしておく。 このような場所にこそ花の1輪も欲しいも のである。
(7)季節にあわせて待合室を飾るのも、受付の細かい気配りの表れである。
(8)待合室の書物の整備にもつねに気を配りたい。雑誌は品のある新しいものを 整理して置くようにする。主婦向けの雑誌とか、中高年向きの健康管理に関する冊 子などは喜ばれるようである。
子どものためには、子どもの好みそうな本を置く。口腔の健康に関する子ども向 けの啓発冊子や、やさしく解説したチャートやパンフレットなども患者教育の意味 で必要である。
以上のような点に注意を払えばよい。 しかし、 ときには診療が終わって、患者を 送り出したのち、患者の立場になって椅子に座って受付方向をみるなり、待合室全 体をみわたすとよい。思わぬ点に気がつくことがあるものである。