十分に検討された診療内容を効率よく行うためには、一定の手順に従った診療体
制のなかで行われなければならない。それには、時間約束制(アポイントメント・
システム)の採用が必要である。
時間約束制の考え方
時間約束制には、次の二つの考え方がある。
1)単に患者の来院する時間を確保する考え方罹患歯
これは、患者の来院日時を前もって知ることができ、 1日何人というその診療所
の能力に応じて患者を管理することができる。
受付には、時間約束簿(アポイントメント・ブック)を用意して患者の名前を診
療時間の部に書き込み、患者には予約診療券を発行する。ただし、 1回ずつのアポ
イントメントであるから、患者の多い場合には次回のアポイントメントはかなり先
の日時になってしまう恐れがある。また、緊急患者の処置や、思わぬことで診療に
手間がかかったような場合には、アポイントメントの時間がずれこみ、 1日の診療
手順はかなりの誤差を生むことになる。そして、このようなことがたびたび起こる
と患者はこの制度を信用しなくなり、来院時間の約束ごとは乱れ始めることが多々
ある。また、 1回の予約時間が患者一人あたり10分から15分程度では十分な診療
ができないので、結局は診療日数が増えることになる。
受付は、このアポイントメントに対し、一方では診療室での治療の進行状態を心
配し、一方では約束患者の応対と時間が遅れた場合のお詫びと説明に苦労すること
になる。
この制度がいきづまり混乱すると、いわゆる来院時間を患者の自由にまかせ、来
院してから先着順に診療するシステムとなんら変わらないことになる。
診療所での歯科医師、歯科衛生士、歯科助手らのスタッフが十分にそろい、ま
た、診療ユニット台数に余裕がある場合は、これらのトラブルをある程度解消することができる。 しかし、それらに余裕がない場合は、そのしわよせが、 じかに受付
の肩にのしかかってくることになる。
しかし、この制度は非常によく普及しているので、それなりの実情に即した研究
が必要である。受付は歯科衛生士や歯科助手との連携を密にするとともに、 1日の
診療時間帯に2-3カ所の空白時間帯を設け、時間の調整と緊急患者の治療時間に
あてるように心がけるのも一方法である。
2)計画診療を目的とする時間約束制。
これは単に時間を予約するという意味でなく、計画診療を実施するために必要な
手段としての時間約束制である。
計画診療の方針が決まれば、その診療を進めていくうえで、どのくらいの日数を
要し、何回くらいの診療回数を必要とするかということを検討しなければならい。
これは、その診療所の設備とか、スタッフの数と能力に応じて決定されるもので
ある。計画診療を進めていくうえでの時間約束制であり、時間約束制がすなわち、 計画診療ではないということに注意すべきである。
この制度を順調に進めていくためには、まず、歯科医師をはじめとして全スタッ
フが計画診療と時間約束制の目的、内容、長所、短所を十分に理解していなければ
ならない。とくに受付においては、患者への説明および患者の診療日程に応じた日
程表の作成と、約束簿の管理は大変重要な職務となる。
時間約束制の長所と短所
時間約束制の長所と短所をあげると、次のとおりになる。
長所
(1)歯科医師が修得した歯科医学、技術を十分に発揮しやすい。
(2)そのためには、診療行為にかなりの時間を要するが、その診療行為に適した
時間と患者の通院回数を事前に確保できる。
(3)1回の診療行為に時間をかけるため、診療実日数は減少する。
14)患者は待ち時間が少なく、かつ通院回数が少ないことにより、時間のむだが
省ける。
短所
(1)1日の患者の取り扱い数は限られてくる。
(2)患者の多い診療所では、すべての患者にただちに診療を進めていくことは困
難である。したがって診療約束待ちの形で、患者が初診を受けたあと、 しばらく間
をおいて診療時期を約束しなければならない。
(3) 患者が違約して来院しない場合、空白時間をつくることになる。
(4)緊急患者のための診療時間をとるのに苦労することがある。
以上の時間約束制の長所と短所をよく理解したうえで、時間約束制と順番制とを
組み合わせて、患者の希望に応ずる方法もとられている。すなわち、診療所の立地条件とか周囲の環境などにより、 1週間全日を完全な時間約束制とし、 1回の治療
時間は最低30分-1時間、 1日約6-10人の患者を診療する診療所もあれば、 1
週間のうち何日かを順番制の日とし、ほかの曜日は時間約束制の日としている診療
所もある。また、 1日のうち午前は時間約束制、午後は順番制と区別して時間の都
合のつかない人たちのために時間をあけておく診療所もある。いずれにしても、
個々の診療所の実情によって自由に定められる。
受付における注意事項
時間約束制を実施する場合、受付において注意すべきことは次のとお
りである。
1)患者に対するPR
最近、この制度は普及しているので患者はよく承知しているが、患者に十分に説
明して協力を求める努力が必要である。
2)予約時間の確認
習慣的に約束を忘れたり、遅れる患者には予約時間の前に、あるいは前日に電話
で次のように知らせることが必要である。“先日お約束いたしました診療のお時間
は、明日午前○時から○時間となっております。ご存じとは思いますが、念のため
お電話させていただきました。それでは明日お待ちしております"
2章 受付の基礎知識と業務 41
約束の日時に来院しなかった患者には、電話で“先日お約束の時間におみえにな
りませんでしたが、いかがなさいましたか……。あらためてお約束の時間をとらせ
ていただきますが、いかがなさいますか"などと連絡する。
3)緊急患者が来院した場合
緊急患者が来院した場合、「どうなさいましたか、お痛みですか」とその患者の
容態を聞き、 もし我慢できないと患者が答えたならば、歯科医師にただちに連絡し
緊急来院の処置をとる。
受診に必要な手続きをとると同時に「ただいま、院長に連絡をとりましたので、
これから拝見いたしますが、 ご承知のように当院では患者さんのおいでになる時間
をあらかじめお約束して診療いたします。あいにく、ただいま予約の患者さんの治
療中でございますので○時ごろまでお待ちいただけるでしょうかJ「できるだけ早
く診られるようにいたします」などと患者の了解を得る。
“当院は予約制ですので"という言葉を最初にいってはいけない。患者には診て
もらえるという安心感を与えたうえで説明に入ることが大切である。患者が待てる
場合は、「どうぞ、そちらでおかけになってお待ちください」とお願いする。
4)電話で緊急患者の診療申込があった場合。
このような場合には、「ただいまお痛みですか、それではすぐにおいでください。
いまどちらでしょうか」と患者の現在地を聞いておくことによって、受付はあと何
分ぐらいで患者が到着することができるかを判断し、緊急処置のための対応と時間
調整をその間に考えておく。相手の顔や表情がみえない電話応対の場合は、 とくに
誠意をもって受け応えすべきである。
5)予約なしの新患が来院した場合。
予約なしで来院した新患には、 まずなにを主訴として来院したのか、緊急度はど
れくらいか、などの質問をして、 もし緊急を要しない場合は、「あいにくと、本日
は予約の患者さんがいっぱいつまっておりまして、 どうしても治療する時間の都合
がつきません。大変申しわけありませんが、ほかの日に拝見させていただけないで
しょうか」とていねいに述べる。患者がそれでよいと了承したならば、「ご都合は
いつごろがよろしいでしょうか」「それでは、○月○ 日の○時にお約束させていた
だきますので、その時間におこしください。もし、それまでにお痛みになるような
ことがございましたら、どうぞご遠慮なくお電話ください」と患者に安心感と信頼
感を与えることが大切である。 もちろん、当日に時間のとれる場合はすぐに診療す
るか、あるいはその時間まで待つてもらうことになる。
緊急を要しない患者のなかには、いくら受付が説明しても納得してもらえない場
合もある。その人たちは、まず、むずかしい説明を聞くより結論として今日は診療してくれるのかどうかを先に聞こうとする傾向がある。そして今日は申し込みだけ
で診療する時間がないと説明すると、非常に抵抗を感じ、 こちらを非難してくるこ
とがある。 このような場合は、議論はできるだけ避け、少しの時間をみて簡単な診
療だけでもするように配慮することが望ましい。
6)時間約束簿の管理。
初診患者が第1回目の診療が終了したときに、あらためて時間約束制のルールを
説明してもよい。そして、次回からの約束は時間約束簿に患者の氏名、来院日時を
書き込む。歯科医師側から次回の診療内容に関するメモなり指示があれば、その内
容を簡単に書いておくと約束時間を調整するうえで非常に都合がよい。
時間約束簿に次回来院の日時を記入したら、患者の予約診療券に約
束の日時を記入し、患者に確認してもらっておく必要がある。 また、患者の都合で
約束の日時を変更する必要が生じた場合、できるだけ速やかに電話連絡するようお
願いしておくことも大切である。
歯科医師が複数の場合、受付が管理する約束簿以外に、個々の診療担当歯科医師
の1日の診療日程表をつくる。前日までにその日に来院する患者の氏
名と時間および簡単な診療内容予定を記入したものを用意しておき、当日各診療台
に配置しておけば診療を進めるうえで非常に有効である。 これには、診療補助者も
協力して、作成するようにする。
この当日の日程表を作成することにより、前日あるいは当日の朝、担当の歯科衛
生士が診療の前準備を十分に行うことができ、スムーズに1日の診療をすることが
できる。